不安定な政治情勢が種の損失をもたらす

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2017年12月20日
ケンブリッジ大学(訳:天野達也博士)

世界の生物多様性について大規模な解析を行った研究により、人類の環境に対する影響を示す他のどの指標よりも、各国におけるガバナンスの有効性の低さが種の減少を最もよく説明することが示された。社会・政治情勢が不安定である国では、保護区の効果も望めないことが示されている。

オグロシギ(Limosa limosa)の生息地はロシア極東からヨーロッパ、アフリカ、オーストラリア地域にまたがる。 © Szabolcs Nagy/Wetlands International

過去30年に及ぶ世界の生物種の変化を調べた大規模な研究によって、経済成長や気候変動、人口増加など様々な要因の中で、各国におけるガバナンスの有効性の低さが種の減少を最もよく説明する要因だということが示された。

Nature誌に発表されたこの研究では、保護区は生物多様性の保全に有効であるものの、その効果は社会・政治情勢が安定している国でのみ得られるということも示されている。

この研究では、水鳥類の生息地である湿地生態系が地球上で最も豊かな生物多様性を維持している一方、現在最も脅威にさらされているという点に注目し、1990年からの水鳥種の動態を生物多様性全般の変化を表す指標として用いた。

ケンブリッジ大学が主導した国際チームによるこの研究では、全世界における2万6千の調査地で記録された461種の水鳥に関する240万件にも及ぶデータが解析された。

チームはこの巨大なデータを用いて、まず様々な国や地域における局所的な水鳥個体数の変化を定量化した。次にその結果と、各国における暴力発生率や法による支配、政治腐敗などガバナンスの様々な側面を指標化したWorldwide Governance Indicators(世界ガバナンス指標)、及びGDPや保全努力量などその他のデータとの比較を行った。

その結果、西・中央アジアや南アメリカ、サブサハラアフリカといった、平均的にガバナンスの有効性が低い地域で、特に水鳥の減少が著しいことが明らかになった。

一方で、大陸ヨーロッパでは減少している種も存在するものの、平均的には水鳥類は最も増加していた。

各国におけるガバナンスの有効性が生物多様性の損失を説明する最も重要な指標であるという結果は、この研究によって世界で初めて示された。

「全世界で生物多様性の保護区は拡大し続けていますが、今回の研究の結果はガバナンスの有効性が低いことでこういった保全努力の効果が失われる可能性を示しています。」と、ケンブリッジ大学の動物学部とExistential Risk研究センターにおいてこの研究を主導した天野達也博士は指摘する。

「ガバナンスと社会・政治情勢の安定は、今後環境政策や保全を発展させていく上で極めて重要な要素のひとつであると言えるでしょう。」

この研究で天野氏は、英国のケンブリッジ大学とバス大学、米国のサンタクララ大学に所属する研究者、そして国際湿地連合及び全米オーデュボン協会と共同研究を行った。

論文の著者らは、自然界の変化を表す世界規模のデータが不足していることで、「生物多様性の危機」についての理解が十分に進んでいないと指摘する。しかしながら、生物多様性変化のパターンを理解するうえで、水鳥類に注目することには利点があると言う。

水鳥にはカモ類やサギ類、フラミンゴからペリカンまで多様な種が存在している。これらの種が生息している湿地は、淡水域から高地まで地球上の13億ヘクタールもの面積を占め、極めて重要な生態系サービスを提供している。また、湿地は人類の活動によって最も改変されている生態系のひとつであることが知られている。

さらに、水鳥類のモニタリングには長い歴史がある。湿地保全連合によって毎年行われている全世界調査には、過去50年に渡って1万5千人以上ものボランティアが参加してきた。全米オーデュボン協会によって毎年行われているクリスマス・バード・カウントは、1900年から続けられている。

「この研究は、生物多様性の損失を食い止めるために我々が何をすればいいのかについて、水鳥類のモニタリングが貴重な知見を提供し得ることを示しています。」と、湿地保全連合におけるアフリカ-ユーラシア水鳥センサスのコーディネーターである共著者のSzabolcs Nagy氏は言う。

この研究で検証された人間活動の影響を示す他のどの指標よりも、国のガバナンスの程度は重要な役割を果たしていた。「ガバナンスの有効性の低さは、しばしば環境保全に関する法が適切に執行されないことや環境保全に対する投資の欠如と関係があり、結果として生息地の損失につながります」と天野氏は言う。

またこの研究では、GDP成長率と生物多様性の関係についても明らかにしている。すなわち、GDP成長率が高い地域ほど、水鳥種は減少していた。

水鳥類は平均でみると南アメリカで最も減少しており、減少率は毎年0.95%、過去25年では平均21%の減少が見られた。また天野氏は、水鳥類が西・中央アジアの内陸部で著しく減少していたことに驚いたと言う。

イランやアルゼンチンなどアジアや南アメリカの一部地域において、水資源の不適切な管理やダムの建築が原因となり、保護区に設定されていても干上がってしまう湿地があることを、著者らは指摘している。

ガバナンスが有効でない場合に種が失われるもう一つの原因として、狩猟規制の影響も重要だと考えられる。「政治情勢が不安定なことで法律も適切に執行されなくなり、結果としてたとえ保護区の中であっても持続可能でない、しばしば違法の狩猟が促進されることがあります。」と天野氏は説明する。

実際この研究では、ガバナンスが弱い国に設置された保護区は生物多様性の保全に貢献していないことが示された。

天野氏が関わった最近の別の研究では、地域住民や先住民によって主導されている草の根レベルの活動が、政府によって主導されている活動よりも効果的に生態系の保全を行える可能性が示されている。恐らくこういった市民レベルの活動は、政治情勢が不安定な地域において生物多様性の保全を行うための有効なアプローチのひとつであると言えるだろう。


Original Link

https://www.cam.ac.uk/research/news/political-instability-and-weak-governance-lead-to-loss-of-species-study-finds

Reference

Amano, T et al. Successful conservation of global waterbird populations depends on effective governance. Nature; 20 December 2017; DOI: 10.1038/nature25139

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